適応障害は、特定のストレス要因に反応して、気分の落ち込みや不安、行動の変化などが現れる病気です。症状はストレス要因がなくなると改善することが多いですが、慢性化することもあります。治療は、ストレス要因の軽減や、認知行動療法などのカウンセリング、必要に応じて薬物療法が行われます。
適応障害とは、引っ越し、転職、人間関係の変化など、特定の出来事や状況が原因で、強いストレスを感じ、心身に様々な症状が現れる状態です。例えば、憂鬱な気分や不安が強くなり、涙もろくなったり、過剰に心配したり、神経が過敏になったりします。
国際的な診断基準であるICD-10では、適応障害は「ストレス要因によって引き起こされる情緒面や行動面の症状で、日常生活に著しい支障をきたしている状態」と定義されています。ここでいうストレスとは、「人生における大きな変化や、ストレスの多い出来事」を指します。
ストレス要因は、個人的なものから、災害のように社会全体に影響を与えるものまで様々です。また、同じ出来事でも、ストレスと感じる人とそうでない人がいるように、ストレスに対する感じ方や耐性は人によって大きく異なります。つまり、適応障害とは、ある出来事がその人にとって非常に大きなストレスとなり、日常生活を送ることが困難になるほど、憂鬱、不安、心配などの症状が強く現れ、それが通常の範囲を超えている状態といえます。
適応障害の場合、原因となる出来事がはっきりしているため、その原因から離れることで症状は徐々に改善します。しかし、原因から離れることが難しい場合や、原因が解消されない場合には、症状が慢性化することもあります。
適応障害は、誰にでも起こりうる病気ですが、特に発症しやすい傾向を持つ人がいます。過去に大きなストレスを経験した人、繊細な人、完璧主義な人など、ストレスに弱い人は、些細なことでも心身に負担を感じやすく、適応障害を発症するリスクが高いと言えます。
また、引っ越しや転職など、生活環境の変化に対応するのが苦手な人も注意が必要です。環境の変化は、心身に大きなストレスを与え、適応能力を低下させる可能性があります。
さらに、周囲に相談できる人がいない、つまり孤立しがちな人や、悩みを抱え込みやすい人も、ストレスを一人で抱え込み、適応障害を発症しやすい傾向があります。真面目で責任感が強い人も、無理をしすぎてしまうことで心身のバランスを崩し、適応障害を発症するリスクがあります。しかし、これらの特徴に当てはまらない人でも、強いストレスにさらされれば適応障害を発症する可能性は十分にあります。
ストレス要因:
・転勤、転職、退職、結婚、離婚、死別、病気など、生活上の大きな変化
・職場や学校での人間関係のトラブル、経済的な問題、家庭内の不和など、持続的なストレス
個人の要因:
・ストレスに対する脆弱性(もろさ)
・過去のトラウマ体験
・完璧主義や几帳面な性格
・自己肯定感の低さ
・ストレス対処能力の低さ
社会的要因:
・周囲からのサポート不足
・孤立
・差別や偏見
これらの要因が複雑に絡み合い、脳内の神経伝達物質のバランスを崩し、自律神経系や内分泌系に影響を与えることで、適応障害の症状が現れると考えられています。
適応障害では、以下のような症状が現れることがあります。
・情緒面: 憂鬱、不安、怒り、焦り、緊張など
・行動面: 過度の飲酒や暴食、無断欠席、危険な運転、けんかなどの攻撃的な行動
・身体面: 動悸、発汗、めまいなど(不安や緊張が強い場合に現れる)
適応障害の特徴として、原因となるストレスから離れると症状が改善することが挙げられます。例えば、仕事上の問題が原因の場合、勤務日には憂鬱や不安が強く、体の症状も現れますが、休日には気分が楽になり、趣味を楽しめることがあります。
一方、うつ病の場合は、環境が変わっても気分が晴れず、憂鬱な気分が持続し、何も楽しめなくなります。持続的な憂鬱、興味や関心の喪失、食欲不振、不眠などの症状が2週間以上続く場合は、うつ病の可能性が高いと考えられます。
適応障害の診断基準では、通常、ストレスとなる出来事が起こってから1か月以内に症状が現れ、ストレスが解消してから6か月以上症状が持続することはないとされています。ただし、慢性的なストレスが存在する場合は、症状も慢性的に続くことがあります。
診察では、以下の点を詳しく確認します。
・症状が現れる前に、ストレスとなる出来事があったか
・いつ頃から症状が現れているか
・症状と出来事の間に強い関連性があるか
・苦悩の程度はどのくらいか
また、統合失調症、うつ病、不安障害など、他の病気の可能性を排除する必要があります。
適応障害の有病率は、一般的には人口の1%程度とされていますが、末期がん患者では16.3%という報告もあります。ただし、適応障害と診断された人のうち、5年後には40%以上がうつ病などに診断名が変更されているというデータもあり、適応障害はより深刻な病気の前段階である可能性も考えられます。
適応障害の治療は、まず「ストレス要因の除去」を目指します。具体的には、環境を変えることが有効です。例えば、暴力を振るうパートナーから離れるために、周囲に助けを求めるなどが挙げられます。しかし、家族関係など、容易に解消できないストレス要因もあります。
また、ストレスに対する耐性は人それぞれ異なるため、「ストレス要因に対する適応力を高める」ことも重要です。そのために、以下の心理療法が行われます。
・認知行動療法: ストレスに対する考え方のパターンを見つけ、より適応的な考え方に変えていく
・問題解決療法: 現在抱えている問題に焦点を当て、解決策を一緒に探していく
これらの治療法では、患者さん自身が主体的に取り組むことが大切です。
通常、適応障害の治療では薬物療法は優先されませんが、不眠、強い不安、恐怖などの症状が重く、日常生活に支障をきたしている場合には、抗不安薬、睡眠導入薬、抗うつ薬などが用いられることがあります。ただし、薬物療法はあくまで対症療法であり、根本的な治療にはなりません。そのため、環境調整やカウンセリングと並行して行うことが重要です。